私は荒れ果てた,不毛の地にひとり立っていた.焼け焦げた大地と,かつて栄えていた世界の廃墟に囲まれている.空は混沌とした炎の渦で燃え上がり,壊れた建造物や干からびた大地に不気味な光を投げかけていた.灰と埃が空気を覆い,すべてを飲み込んだ大災害の名残が息を詰まらせる.
私はひざまずき,圧倒され,意味をなそうと藻掻いていた.
そのとき,影が揺らいだ.
それらは一つの点を目指すように這うように動き,その闇から巨大な姿が浮かび上がった.影に包まれ,獲物を狙う捕食者のような目が薄暗さを切り裂いた.
それは近づいてきた.およそ2.3~2.4メートルにも及ぶ身の丈.身体は液状のごとく流動的で,髪は煙のようにうねり,深淵のように漆黒だった.
心臓が轟き,体が凍りつき,言葉も動きも奪われた.見つめることしかできず,その鋭い眼差しの中でビジョンは粉々に砕け散った.
そして,私は目を覚ました.
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ジェームズはペンを置いた.オフィスのドアを軽くノックする音が響く.蛍光灯の無機質なハム音が,ここが現実の場所であることを思い出させる.こめかみをこすりながら,背もたれに寄りかかり,夢から覚めようとしていた.
ドアが開き,女性が入ってきた.
「おお,テイラーか.どうした?」と声をかける.
彼女は書類の束を黙って机の上に置いた.「サング社から契約書が届いたわ.明日までにレビューが必要.」
ジェームズはそれをちらりと見る.「今夜にでもやっておくよ...」
冷静な声が響く.「"今夜"じゃ間に合わないの.今朝中に仕上げて欲しいの.」
彼はため息をついた.「安心しろ.もっとカオスな状況でもこなしてきたさ.」
彼女はじっと彼を見つめ,しかしどこか心配そうだった.「そこが問題なの.」
眉を上げる.「じゃ,問題って何だ?」
彼女は少し身を乗り出し,低く鋭く言った.「最近…調子が悪いわ.こんな大事なところで手を抜けない.」
彼は笑って切り返した.「集中力が落ちてる? いや,ペース配分してるだけだよ.」
彼女は腕を組む.「ペースの問題じゃないの,ジェームズ.フォーカス力.もし私にできることがあるなら…」
「コーヒーを頼むよ」と彼がニヤリ.「それがあれば助かる.」
彼女は目を転がした.「私は真面目に言ってるの.」
「分かってるよ.」彼は柔らかく目を合わせた.「書類にはすぐ取り掛かる.約束する.」
彼女はドアのところで少し立ち止まり,「そして,ジェームズ?」と呼びかけた.
「何だ?」
「明日,私に尻拭いさせないでよ.」
彼は笑顔で応えた.「そんな夢見るやつにはなれないね.」
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午後5時,ジェームズは精神的に退社時間を迎えていた.静かな家は歓迎の変化.夕食を作る音と,フライパンで時折鳴るジュッという音だけが響いていた.
一口かじったところで,電話が鳴る.
「んん? ハロー?」
「ジェームズ! もう忘れたなんて言わないでよ.」
彼は飲み込みながら返事した.「スティーブ? スティーブ・ロジャースか?」
笑い声が返ってきた.「そう近いぞ.今じゃ俺,スーパーヒーローステータスゲットだな?」
ジェームズは笑顔.「お前に言ってるんじゃないけど,たまたま見てるだけさ.」
「それで,俺のこと忘れた?」
彼は笑った.「冗談だよ.忘れてないってば.どうした?」
スティーブは茶化す.「今や会社のトップだろ? ビジネスのジェームズ,超高層オフィスにホットな秘書付きってわけか?」
ジェームズは笑いをこらえきれずむせた.「そんなことないよ.テイラーは…プロフェッショナルさ.」
「ほう,じゃあ浮いた話はなし? 社内ドラマもやめたんだな?」
彼は真面目な声になった.「もっと大事なことに集中してる.」
スティーブは引き下がった.「ああ,冗談さ.じゃ,週末飲みにでもどうだ?」
「いいね」とジェームズはほっとして応えた.「息抜きにちょうどいい.」
笑いながら話す二人.そのとき,電気がチラついた.次に地面が震えた.
ジェームズは立ち上がり驚いた.「揺れた? 地震か? 電話切るわ.」
通話を切ると,スプーンを握りながら目を閉じ,世界が再び溶けていくのを感じた.
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彼は再び荒れ果てた廃墟にいた.
ひび割れた乾いた地面,むかつくほど赤い空.大地には血が流れ,裂け目に溜まり,不自然に脈打っている.赤黒い川が地平線まで伸び,まだ生き物のようにぴくついていた.
空気は朽ちと金属の臭いに満ち,沈黙が支配していた.
呼吸もできない.
そのとき,現実が鋭く戻ってきた.
激しい呼吸で,ジェームズはひざまずいた.胃が激しく締めつけられる.しばらくして,彼はなんとか立ち上がり,ふらつきながら階下に降り,ブレーカーを確認しに向かった.
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翌朝,サング社とのミーティングは朦朧(もうろう)とした記憶だった.
皆が握手し,挨拶を交わす.ジェームズはほとんど耳に入らなかった.心はまだあの荒廃した世界に囚われていた.
部屋が空になり始めたとき,誰かの大きな声が彼を現実へ引き戻した.
「シルバーのお坊ちゃま! すげぇ朝だったな?」とファーグ氏が背中を叩いた.
ジェームズはつらい笑顔を作った.「ファーグさん…ああ…ちょっとカオスでしたね.」
ファーグはにやりと笑いながら言った.「カオス? それとも親父さんみたいに賭けに出たのか?あいつは bluff の達人だったぜ.」
その一言が胸を突いたが,ジェームズは落ち着いて返す.「俺なりのスタイルがあるんです.」
「謙遜も忘れてないな? 潜在能力ありまくりだぜ.ただちょっと荒削りだがな.」
ジェームズはぎこちなく笑った.「磨いていきますよ.」
ファーグは肩に手を回し,「その調子だ! くよくよすんなよ.会社はもう,お前の父親の頃よりずっとマシだ.」
ジェームズは口を引き結びながらも微笑んだ.「褒め言葉として受け取ります.」
「本気で言ってるさ! これからも期待してるぜ」とウィンクしてファーグは去った.
彼が去ったとたん,ジェームズはゆっくり息を吐き,肩の力が解けた.